地下が危ない!


水害メカニズム 体験レポート

解   説
 
関西大学工学部都市環境工学科
教 授 石垣泰輔
写真提供:国土交通省 九州地方整備局
 1999年6月の福岡水害、1999年7月の東京新宿でのビル地下への浸水、2000年9月の東海水害、2003年の福岡水害など、都市域の地下空間への浸水被害が発生しました。また、2001年7月のソウル、2002年8月のヨーロッパでも洪水で地下鉄等が水没し、2003年9月には高潮でプサンの近くの馬山で海岸から800mも離れたビル地下のカラオケバーが水没し、8名が亡くなる被害が発生しています。このように、最近地下空間の浸水対策が重要になってきており、都市水害に関する研究が進められています。ここで紹介されている実物大のドアや階段模型は、地下空間が浸水した場合の避難や救助について検討し、被害の軽減に役立てることを目的として設置されたものです。また、なるべく多くの方に体験していただいて、万が一そのような状況になった場合に役立ててもらうことを目的に一般公開をさせて頂きました。
 ドアの模型は、ビルの地下室を想定したもので、ドア前面の水深が何センチになるまでに避難が必要か、また、救助が可能か、などを検討することを目的に作成したものです。小学校高学年や女性の方では30cm、成人男性で40cmが限界の目安です。重要なことは、地下空間に入った水は、たまる一方で、水深が急激に大きくなる、ということです。したがって、激しい雨が続くような場合は地下に入らない。もし、浸水に気がついた場合は、直ちに地上に避難することが第一です。また、地下では、地上の状況(雨の様子)を把握するのは難しいので天窓のような明かりとりを設置するような工夫が必要です。
 階段模型は、地下街や地下鉄の出入り口を想定したもので、地上の水深が何センチになるまでに避難が必要か、また、救助が可能か、などを検討することを目的に作成したものです。出入り口付近での流れの速度は小さいですが、階段に入ると急に加速し、下に行くほど速度は早くなります。地上の水深が30cmの場合には、階段下では秒速4メートル以上になります。この流速では、お子さんや年配の方々の避難は困難になります。成人男子の方でも、地上水深が40cmになると避難が困難になります。実際の水害時には、停電することもあり、さらに避難を困難にする要素が加わります。このことは、救助をするうえでも同様の困難さが生じることを意味します。したがって、地下室と同様に、激しい雨が続くような場合は地下に入らない。もし、浸水に気がついた場合は、直ちに地上に避難することが第一です。地下街や地下鉄などでは、地下の管理者が外の状況を知らせるシステムを作ると共に避難計画を作成すること、さらには職員や店員の人が安全に避難できる階段に誘導するための訓練をすること等が必要になってきます。
 市街地に降った雨は、通常は道路の側溝から排水されますが、激しい雨の場合は排水できずに溢れ、地盤の低いところに溜まります。したがって、このような浸水は川の近くに限らず、夕立などの強い雨が降ったときに水溜りができるような場所でも発生する可能性がありますので、このような点についても注意しておくことも大切です。また、地下への出入り口には、少しかさ上げ(マウンドアップ)してあったり、防水板(止水板)などの対策がなされていますが、その入り口から浸水する可能性もあるということです。
 以上、実験の目的等を述べましたが、これらの研究が、被害の軽減に役立ち、安心・安全な生活ができることを望んでいます。
 
ドア模型浸水開閉実験
[水理実験所第2実験棟]
 
地下空間で浸水時、一番危険な事は静水圧で扉の開閉が出来なくなる事です。その事により水害時亡くなられる人がいますが、なぜ脱出できなかったのか?と疑問に思うことが多々あると思います。 しかし、実際に体験してみる事により、地下空間で侵入水が確認された場合、すでに脱出する時間は残りわずかか、若しくはもう残されていない可能性があり、男性の大人でも開閉できなくなる事実が体験できました。
 
小学生くらいの女の子2人による実験(ドアの高さ2m、幅82cmの鉄製)
左の写真は、水深30cm。女の子2人でやっと押して開きました。 右の写真は、水深40cm。10cm水深が上がっただけで、押しても、もうビクともしませんでした。
実際、体験してきた私(身長180cm、体重70kgの成人男性)でも、水深30cmで開けるのがやっとでした。水深40cmになると、開けるまでに時間がかなりかかり、その間に水が増えてしまうので、成人男子でも水深20cmくらいの時に脱出しないと危ない事がわかりました。(子供では浸水20cmで開きません。)また、開いたとしても完全に開けないと水圧で手や体が挟まり大ケガにつながる危険が大きいです。水深40cmになると長靴でも踏ん張れず滑り、普段の靴や女性のヒール等の場合、更に速い段階での脱出が望まれます。
 

50cmの水深になると、成人男性が
引きて側から開けようとしても開かない。
浸水時ドアにかかる水圧
水  深水圧を重さに変えた値
10cm4kg
20cm16kg
30cm36kg
40cm64kg
50cm100kg
60cm144kg
70cm196kg
80cm256kg
90cm324kg
100cm400kg
 
水害時、階段から地下に流れ込む侵入水に対する脱出実験
[水理実験所第1実験棟]
 
水害時、地下鉄等地下施設に階段から流れ込む水の量や勢いは想像以上のものです。だいたい地上の水深が30〜50cmくらいが歩いて逃げる時の限界と言われています。その際、高さ3m、幅1m、段数20段の階段で、地上が洪水氾濫していることを想定して、水深10、20,30,40cmのとき地下から地上までどのように逃げるか体験しました。
 
地下階段へ流れ込む侵入水に対する体験実験
ちょっとした雨の流入 地上が水深20cmの場合の侵入水
  
地上が水深20cmの場合の侵入水 地上が水深30cmの場合の侵入水
水深20cmの場合は、手すりがあれば何とか30秒で上まで辿り着ける。
水深30cmになると、10cmの水位の上昇で、水勢は20cmの2倍に感じる。足をしっかり水から抜いて次ぎの1歩を出さないと進み難いです。さらに、水深が上がれば歩行はかなり困難になっていく事がわかりました。
今回の場合、体験してみて、階段には滑り止めがついており、何とか足が流されずに踏ん張れます。これが付いている場合とついていない場合の差は大きいと感じました。しかし、実際普段の都市部の地下鉄や地下街などの場合、手には荷物を持ち、靴はヒールや革靴、階段は滑りやすく、人が混雑し、水害の場合、地下は停電する事が予想され、また、一緒に流れてくる流入物などによる危険を考えれば、このような状況では20cmの水深でも逃げる事は、かなりの困難が予想されます。
 
都市型水害対策
 
日本では国土の約10%に当たる氾濫想定区域に、人口の約50%と資産の約75%が集中しており、都市部での水害は大きな被害をもたらす事を念頭におく事が大事です。
大雨警報や30mm以上の雨が30分以上続くときは早めに地下施設から地上にでる。
大雨が予想される時は、地下鉄等利用する場合、動きやすいゴム底の靴で出かける。地下でも狭い空間はより危険で、浸水から5分程度で脱出不可能になるので、大雨の時は入らない。
浸水を感じたら早めに扉を全開にしておく。出来れば固定。
大量の流入水を感じたら、階段は内回りで上る。また、次ぎの1歩は水から出してから進む。引きずる感じに上ると危険。
停電には心の準備を。
大量の人ごみが予想されるので、人より早い避難か、出口に人が殺到するため圧死や巻き込まれる事には十分注意する。
両手はフリーにし、手すり等しっかり両手で持つ。
この実験は、防災研究所内の水害を研究しているグループが進めているものであり、石垣泰輔教授はそのメンバーの一人です。
 
  
協 力:京都大学防災研究所
宇治川水理実験所




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