【2005年3月20日福岡県西方沖地震の解説】


独立行政法人産業技術総合研究所
活断層研究センター 地震テクトニクスチーム
主任研究員遠 田 晋 次


1.なぜ福岡県で地震が?

 福岡県西方沖地震は、いわゆる内陸の直下型地震である。東海地震や三陸沖地震などのようなプレート境界型の地震ではない。直下型地震の特徴は、震源の深さが20kmよりも浅く地面に近いため、被害が局所的に甚大になることだ。今回の地震は博多湾に近い玄界灘にある断層が動いたことによるもので、震源直上の玄界島で特に著しい被害となった。地震を起こした断層は、北西ー南東の方向に長さ約20km、幅約15kmのひろがりを持ち、断層を挟んで岩盤が1-2m程度左に横ずれした。地震の規模はマグニチュード7で、断層の向き、ずれの量とも2000年に発生した鳥取県西部地震に似ている。
 この地震についての最大の関心事は、地震に縁がないと思われていた福岡県で発生したことだ。一般市民だけではなく、著者を含めた多くの地震学者も全くの不意打ちをくらった形だ。気象庁のデータベースによると、福岡県は過去50年間、震度5以上の揺れを全く経験していないばかりか、震度4にいたっても、わずか4回しかない(しかも日向灘や山口県を震源とする地震によるものだけ)。地震発生3日後に政府の地震調査研究推進本部が発表した「全国を概観した地震動予測地図」では、今後30年以内に震度6弱以上の揺れに見舞われる確率は0.1%未満だった。皮肉にも日本列島で最も地震発生確率が低い地域で発生したものだ。
 では、今回の地震が前代未聞だったかといわれれば、そうでもない。1898年(明治31年)には糸島半島に被害を及ぼしたいわゆる「糸島地震」がある。この地震では200軒以上の家屋が破損しており、地震の推定規模はマグニチュード6といわれている(宇佐美、2003)。さらに、もっとさかのぼれば、西暦1700年には壱岐対馬地方で推定マグニチュード7の地震が発生している。歴史的に見て、全く大地震の可能性がなかったわけではない。


2.九州北部の活断層

歴史地震は、近畿地方など古文書などの記録が残っている地域でも西暦800年頃までである。九州に至っては、江戸時代よりも前の記録はかなり不完全だ。そこで、歴史記録でわからないほど古い地震は、地層の記録から読み取ることになる。
 マグニチュードが7程度以上の直下型の大きな地震では、地下の断層のずれが地表にまで到達する。これを地表地震断層といい、地表に達した断層は地面をずらし、地表付近の地層を切断する。これにより、地震の痕跡が残る。また、このような大地震の繰り返しによるずれの集積は崖や線状の地形を作る。これが、地表で観察される活断層である。したがって、活断層を調査し、過去数1000年、数万年間の地層のずれの記録を読み取ることによって、大地震の繰り返しの歴史がわかる。
 福岡県には小倉東断層、福智山断層、西山断層、警固断層、水縄断層という5つの活断層が存在する。福岡県などによる地質調査によって、これらの活断層は、1〜数万年に1回大地震を発生させてきたことがわかった。兵庫県南部地震を引き起こした野島断層のような近畿地方や本州中部に分布する活断層(数千年に1回大地震を発生)に比べると大地震を引き起こす頻度は少ないが、これらの活断層の存在は福岡県での大地震発生の可能性を示すものであった(ちなみに明瞭な活断層が発見されていない都道府県は佐賀県,宮崎県,茨城県)。また、主要な活断層以外にも、長さの短い活断層、活断層の可能性のある断層なども複数分布している。今回の震源付近の海域にも、産総研や海上保安庁の調査によって、活断層の存在が示唆されていた。ただし残念なことに、海域ゆえに地表ほど詳しい分布や地震を起こすかどうかはわかっていなかった。今後は沿岸域の活断層も調査する必要がありそうだ。


図1:福岡県西方沖地震の本震震源域と余震、周辺の活断層



地震データは気象庁と宇佐見(2003)、活断層データは東京大学出版(2002)と福岡県(1996)による

3.余震と今後

 本震が起きた後、気になるのは余震活動である。気象庁が順調に余震が少なくなっていると発表した矢先、本震からちょうど1ヶ月後の4月20日にマグニチュード5.8の最大余震が発生し、福岡市で多くの人々がけがをした。  通常、余震は本震を引き起こした断層の割れのこりを解消するために発生する。その際、余震の数は、余震数=1/時間で少なくなる。例えば、本震から10日後には本震直後の1/10の数になる。余震の数が多いほど、規模の大きな余震が発生する確率は高い。そのため、本震直後に最大余震が発生することが多いが、1ヶ月以上経って発生することもある。また、本震と最大余震のマグニチュードは一般的には1以上の隔たりがある。ただし、新潟県中越地震のように本震の大きさに近い規模の余震が多発する例もあり、地域差も大きい。  実は余震は震源断層沿いだけに発生するものではない。余震域は時間とともにわずかに震源域から外に拡大する。地震によっては、近傍の別な断層に「飛び火」することもあり得る。その極端な例がスマトラ沖の昨年12月と今年3月のいわゆる「双子地震」である。大地震は、震源となった断層沿いの歪みを解放する一方で、その解放された歪みの一部を周辺に分散・伝播させ、隣接する断層に負荷を加える。紙にカッターで切れ込みを入れ、そこをずらすとその先端で破れやすくなることと同じである。その点、今後危惧されるのが福岡市直下に分布する警固断層である。コンピュータでの解析の結果、今回の地震で警固断層に新たに歪みが加わわり、今後30年間に大地震を発生させる確率が西方沖地震前の0.3%から最大7%まで急上昇したことがわかった。すぐに警固断層が動くわけではないが、以前よりも地震を起こしやすい状況になったといえる。今後、警固断層の早急な調査と防災対策、危機管理対策の強化が望まれる。




図2:警固断層から発生するマグニチュード7の地震の今後30年間の発生確率と西方沖地震による影響。最後の地震からの経過年数が13,000年の場合、西方沖地震による歪みの伝播により、最大7%まで確率が上昇する。ただし、今のところ、警固断層が最後に地震を起こした年代(1,500年前〜16,000年前のいつか)が特定できていない。

遠 田 晋 次
役職:活断層研究センター 地震テクトニクスチーム 主任研究員
略歴:電力中央研究所、東京大学地震研究所を経て、2000年より現職。東北大学理学博士。
研究テーマ:活断層による内陸地震の長期評価、地震の連鎖性・誘発現象の解明。


産業総合研究所活断層研究センター 福岡県西方沖地震特集ページ
http://unit.aist.go.jp/actfault/fukuoka/index.html
産業総合研究所地質情報総合センター 福岡県西方沖地震特集ページ
http://www.gsj.jp/jishin/fukuoka_0320/index.html



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